2015年12月1日火曜日

戦争の「第一級の証言者」逝く

漫画家の水木しげる氏が亡くなった。
93歳。
「大往生」と、いうべきかどうか。
 
幼いころから親しんできた漫画の作者の死は、それなりに胸に迫ってくる。
小学校3年くらいだったか、「少年マガジン」で、初めて氏の漫画に接したのは。
「悪魔くん」という作品だった。
主人公が魔法陣から呼び出すと、出てくる悪魔は「メフイスト」という名。
テレビの、実写版の「悪魔くん」で、このメフィストの役は、吉田義夫が演じていた。
東映時代劇の悪役として名を馳せたこの俳優の風貌は、漫画のメフィストそっくりだった。
 
 
背景を病的なほど精緻に描き、登場人物は、極端にデフォルメする。
この特異な画法に、すっかり魅入られ、僕は大フアンになった。
今の今まで、それは続いている。
 
水木氏に親近感を持ったのは、もうひとつ理由がある。
水木氏の故郷、鳥取県の境港市から、日本海を数十キロ離れた沖合に、隠岐諸島がある。
そのうちの、ひとつの小島が、僕の父祖の地なのだ。
境港市は、その先祖累代の土地に向かう、いわば、玄関口だ。
そこから、隠岐までフェリーが出ているのだ。
 
その境港市の商店街が、現在、「水木しげるロード」として、新たな観光名所になっている。
まことに、喜ばしい限りである。
 
じつに人間臭く、魅力ある妖怪たちを、生き生きと描くかたわら、水木氏の、もうひとつの大きな仕事は、「戦争」を描くことだった。
一兵卒として、「あの戦争」に動員され、米軍の爆撃で左手を失った、強烈な「戦争体験」は、次々と漫画化されていった。
そう、水木しげるは、戦争の生きた証言者だった。
しかも、漫画という表現力を駆使できる、「第一級の証言者」だったのだ。
アベ政権を支える自民党は、あろうことか「歴史の歪曲」を、「政策」として掲げている。
このような暴挙を、水木氏はどう捉えていたのだろうか。
 
ともあれ、また一人、「戦争を知っている大人」が冥界に旅立った。
「戦争を知らない子供たち」のなかの、「権力」という玩具を手にいれた、水木氏からみれば、「ほんの餓鬼ども」が、ふたたび「「戦争ができる国」を構築しようとしている。
 
作品の内容から推測するに、水木氏は、きっと「無念」だったに違いない。
 
ご冥福をお祈りする。
 
 
 
 
 
 

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